【18禁注意】【香澄の秘密部屋】 墜ちた天使


ガシャン! ひとりの女が脚光を浴びた。
それにより会場全体に歓声が巻き起こる。大歓声だ。
待ちに待ったオペラの幕上げだった。
舞台は主役のみ。他に共演者の姿はない。事実上の独り舞台だった。
「いい恰好だな、霧崎香澄」
光の中、男は拍手した。
最高のショー、最高の見世物。そう賞賛して。やがて、その拍手が鳴り終わるか終わらないかのうちだった。
「女を裸にして晒し者にするのが、あんたたち組織の趣味ってわけ」
舞台のヒロインが顔を上げた。
両手首は荒縄によって縛り上げられ宙吊りにされている。すらりとしていて高い背丈。長い手足、豊かな乳房、くびれた腰つき。正真正銘、露わに。生まれたままの姿に施された唯一のアクセサリーだ。
「お似合いだよ、霧崎。着飾った服など、おまえには贅沢品だ」
「すみません、香澄さん……僕がヘマをしたばっかりに」
共演者がいた。
舞台ではなく観客席の向こう側からだったが。スポットライトはない。香澄と同じ裸にされ拘束されている。
しかも共演者はひとりじゃない。がたいのいい黒服たちが彼を取り囲んでいる。余程に可愛がられたに違いない。顎に頬、額、その顔の随所には殴られたあとが痛々しく刻まれてある。
「いいのよ」
舞台のヒロインは言った。
「遅かれ早かれ、こうなってた」
「……香澄さんっ!」
「このチビ、誰が喋っていいっつった!? えっ!?」
「彼に触らないで!」
「そんなにこの男が大事か? このサツの坊やが。馬鹿な女だ。たかだか男ひとり救うため自分から身を差し出しに来るとは」
「彼から……志来クンから手を離して」
「今一度、問おう。どうだ? 少しは我々に手を貸す気になったか?」
「そいつには関係ない。今すぐ解放して」
「おまえの態度次第だ、霧崎。可哀想に。殺し屋と。おまえなんかと出会わなければ順風満帆に。清く正しく警察官としての人生を全うできたものを」
「人でなし」
「我々に協力しろ」
「嫌よ」
「いいね、そう来なくっちゃな。張り合いがない」
「解放して」
「必死だな。何度、あの男の前で股を開いた? 何回、ファックした? 処女膜は? もうぶち破られたのか? 余程、居心地がいいとみえる。警察ってとこは」
「サツは嫌いよ。けど、力で服従させようとするやつは、もっと嫌い」
「すぐにおまえも服従する」
「どうかしら」
「このオークション会場に集まった観客たち。ただの観光客だと思うか? この舞台を楽しみに来た。違うな。皆、おまえに恨みを持ってる人間たちだ。憎悪に嫉み、欲求に憤怒。つまり、この会場全体が悪意で埋め尽くされてる。蜷局を巻いて」
男は続けた。
「わかるか? この意味が。一番、高値をつけた客には最高の権利が与えられる。栄誉ある権利だ。それだけじゃない、斧にペンチ、ナイフ、ハンマー、鞭、チェンソー、カッター、鉄パイプ、バール、ドリル、医療用器具。最高のプレゼントも」
「変態」
「ありがとう、賛辞と受け取っておこう。最高の褒め言葉だよ」
「くたばりな」
「口は災いの元。気をつけた方がいい。彼らはわたしのように優しくはないぞ」
「さっさと始めて」

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