【告知】懲役警察 B side diary『Gの戦線』 Kindleにてリリース開始!

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毎月13日発売!

舞台は事件の外!?
登場キャラクターたちのプライベートを覗き見る異色(?)の番外編にして短編シリーズ!
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『ねぇ、ふたりで直接、確かめてみない?』

とある出来事をきっかけに麻薬カルテルに追い詰められる羽目になった祐介と香澄。

荒野の中、佇んだ銃砲店に立て籠もった末、絶体絶命の危機を迎えてしまう。

さらに悪いことに新たな問題が勃発。

なんと頼みの綱である香澄が戦闘不能に陥ってしまったというのだ。

さらには正体不明のスナイパーまで現れて?

背に腹は代えられず。
やっとの思いで捻り出した作戦はちょっぴりエッチで――?

果たして無事、性感ならぬ生還を果たすことができるのか!?

極限サバイバル!

起死回生を賭けた戦いが今、幕を上げる!

■主な登場人物

志来祐介……………………インターポール 全国際領域凶悪犯罪特別捜査課第13班(全課13班)の主任捜査官
霧崎香澄……………………13班の特別捜査官 元殺し屋
リン・フェンツィー…13班の特別捜査官 元詐欺師

『霧崎香澄に告ぐ!』

 店の外で怒号が響き渡った。

『おまえは完全に包囲されてる! おとなしく武器を捨てて出てこい!』

 世の中には様々な災害が存在する。地震に雷、火事、親父、天変地異。殺し屋による災害も。

「何故、こんな目に」

 飛び交う銃弾に炸裂する爆発物、地獄のような悲鳴に断末魔。これまで幾度となく危機的状況に見舞われてきた。いや、正しくは巻き込まれてきた。その度、命を落としかけたし繋いできた。なんとか。辛うじて首の皮一枚。

 が、しかし、それらは単に幸運だっただけなのかもしれない。いってみれば偶然の産物。たまたま生き残れただけの話であって運命の日が先延ばしされたにすぎなかったのかもしれない。

 だとするなら今日この日が、その審判の日といったところか。悪運もとうとう尽きた。今回ばかりは本当にお終いかもしれない。人生終了のお知らせである。

「香澄さん!」

 志来祐介は唾を飛ばした。

「どうしてくれるんです、この状況!? あなたのせいですよ!? 揉めごとは避けろと! あれほど口を酸っぱくして言ったじゃありませんか!?」

 場所は土埃舞う荒野。

 ゴールド・スポット。通称“Gスポット”と呼称されるエリアである。その名の指し示すとおり昔は金の採掘場だったらしく放置されたままのクレーンや重機等、半世紀近く経った今でもその名残が随所に散見される。

「仕掛けてきたのはあっちよ」

 なんとも気怠い声。無残に横転し引っ繰り返った四駆を隔てた向こう側だった。倒れた丸テーブルを背に霧崎香澄が頭を預ける。そのついでとばかりだった。丁度、近くに転がっていたバーボンを拝借。折れ曲がった煙草を一本、唇に咥えた。

 すべての元凶。ことの発端はというとこうだった。

 とある容疑者を追ってメキシコ国境沿いに位置する小さな町に立ち寄った。その治安はというと決して褒められたものではなく世界でも最低ランクに属する。どの観光ガイドでも劇薬、もしくは放射線と同じくらいの扱いを受けている。

 だからというわけではないが元殺し屋にして危機管理のプロを。その道に通ずる香澄をボディガード代わりに据えた。

 紛争地域に地雷原、武装国家に麻薬国家、独裁国家に革命国家、果ては国ごと凶悪犯罪者で固められる無法者国家に至るまで。

 まさに適材適所。目的地が危険であればあるほど、その傾向は強いものになる。というより大抵の場合、いつもそうする。なにか余程の事情でもない限りは。

 ところがそれがいけなかった。完全に裏目に出た。情報を集めようと酒場に足を踏み入れたのが運の尽き。なんと辺り一帯を根城にするカルバン・カルテルに出くわしてしまったのだ。というより待ち構えていた。

 どうやら香澄とは殺し屋時代からの因縁。しがらみがあるらしく、そのしつこさときたら折り紙つき。おかげでちょっとした騒ぎにまで発展した。

 結果、壮絶なまでのカーチェイスを展開。映画さながらの逃走劇を繰り広げた。その代償としてタイヤがバースト。この銃砲店へと車ごと突っ込んだ。既に閉店状態にあったのか。それとも空き家だったのか。無人だったのが唯一の救いだった。

『無駄な抵抗はよせ!』

 キーン。また耳障りなノイズが走った。拡声器を手にカルテルの大ボス、ドン・ラ・ペルラが声を張り上げる。

『おい、聞こえてるか、死の天使よ! とうとう年貢の納め時だ! もう逃げ場はねぇ! 安心しろ、別に獲って食おうってんじゃねぇ! ケツから手ぇ突っ込んで奥歯をガタガタいわせる気も! 八つ裂きにしようなんざ微塵も思っちゃいねぇ! 俺ぁ懐が深ぇんだ! がっはっは!』

 痰の絡んだようなダミ声が息巻く。無残に破壊され穴の開いた壁の隙間からは戦車に装甲車、ボディアーマーに身を包んだ手下らが軒並み顔を連ねている。ちょっとした軍隊並みの景色だ。

 たったひとりの女。一介の殺し屋を追い込むにしては大袈裟とも思えるくらいの重装備である。これらのことから相手が執拗に香澄を警戒しているのが見て取れる。

「一体、何をしでかしたんです?」

 尋常ならざる光景だった。圧巻といってもいい。別に祐介でなくともこの質問に辿り着いたはずである。

「さぁ」

「さぁって」

「いちいち覚えてない」

「余程ですよ、あれは。ご覧なさい、すっかりトサカに血が昇ってしまっていますよ。何をどうしたら、あぁまで人を怒らせることができるんです?」

「こっちが聞きたい」

 まるで他人ごとのそれ。どこ吹く風である。敵を増やし続けることに対し何とも思ってないし感じてない。むしろ楽しんでさえいる。ここまでくると一種の才能である。

「僕が話をつけてきます」

「無駄よ」

「しかし」

「出てったら蜂の巣にされる」

 一瞬、辺りが明るくなった。そのうちヤニ臭い香りが漂ってきた。辺りは火薬だらけだというのに。

「相手はカルバン・カルテルよ。サツみたいに優しくない」

「では、聞きますが」

 一間を置くと上司。トレードマークである丸眼鏡を指先で押し上げた。

「一生、ここに引きこもってるつもりですか? この銃砲店の中に。このままでは踏み込まれるのは時間の問題です。ならば、こちらから出向いていって話をつけるべきです。そうですよ、絶対にそうすべきです。彼らに交渉を持ちかけるんです」

 絶望的な状況だった。まさに孤立無援。助けを求めようと方々、携帯を駆使して連絡を試みたが梨の礫。ようやく地元警察に繋がったと思いきや担当者不在を告げられた。まるで逃げるようにして。

 それもそのはずだった。この辺り一帯はカルバン・カルテルが牛耳っている。彼らの縄張りに足を踏み入れたが最後。根回しに裏工作、買収なんかは当たり前。手を回されていたとしてもおかしくない。精々、連絡がつくのは葬儀屋くらいなものだろう。

「曲がりなりにも僕らは警察官なんですよ? なにが悲しくてマフィアに包囲されなきゃならないんです? これでは立場が完全にあべこべですよ」

「マフィアじゃない、麻薬カルテルよ」

「どちらでも同じです!」

 怒鳴り声だけが虚しく響き渡る。

「とにかく僕は出ていきますからね。誰がなんと言おうと。こんな掃き溜めみたいな場所で野垂れ死ぬよりマシです。きっとわかってもらえるはずです。誠心誠意、お互い敬意を持って話し合えば」

「覚えておくのね」

 整った横顔が口を開く。

「武器を持った相手に対抗できるのは唯一、武器だけよ。話し合いで解決した試しはない。みすみす敵の前に丸腰で出ていけばどうなるか。そんなやつは腐るほど見てきた」

「あなたの敵でしょうが! 僕のじゃありません!」

 勢い余って眼鏡がずり落ちた。一緒にトレンチコートの肩も。それを直すことなく上司の男は捲し立てた。

「そもそも香澄さん、あなたですよ! あなたがあちこちから恨みを買って! でもって誰彼構わず喧嘩を吹っかけて! そんなんだから関係のない僕まで巻き込まれるんです! これでは完全にとばっちりです!」

 言いたいことを言って少しは気が晴れたのだろう。落ち着きを取り戻したように身なりを整えた。

「いつもこのパターンですよ。もううんざりです。香澄さん、あなたのせいで僕の人生は滅茶苦茶です。一体全体、どうしてくれるんです? 責任、取ってください」

「退屈しなくて済むでしょ」

 この頃には溜め息しか出なくなっていた。

「あなたという人は」

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