【香澄の秘密部屋】ウサギ娘
- 2025.06.09
- 香澄の秘密部屋


『冗談じゃない』
ふてくされた顔で香澄は吐き捨てた。
『どういうつもり? こんな恰好させて』
『仕方がないでしょう。潜入捜査なんですから』
やや勢いに押されるようにして志来(しき)祐介。困惑しながら部下をなだめた。
『だからって、どうしてわたしなのよ』
『他に適任がいないからです』
『リンがいるじゃない』
『リンさんは実行役です』
眠らない街、ラスベガス。
会話の間も目まぐるしくスロットマシンの音が鳴り響く。
どうやら勝負強い客がいるらしい。引っ切りなしにフィーバーを当てている。
『香澄さんが他の男性客の目を引きつけてる隙にリンさんがターゲットのカードをすり替える。今夜のポーカーで勝つことさえできれば容疑者は必ず部屋に戻ります。そのときが証拠のファイルを見つけだすチャンスです』
『囮になれっていうの?』
『囮捜査ですから』
『質問の答えになってない』
『リンさんの発案です。香澄さんなら理想の目眩ましになるだろうって』
『あの詐欺師』
『気休めかもしれませんが。そのバニー姿、僕は好きです』
『何か言った?』
『いえ、こちらの話です』
『そう、これって志来クンの趣味ってわけ』
『えぇっと、それは』
マズイ。ウェイトレスでもバーテンでもない。あえて露出の多いバニーコスを着せようと目論んだのがバレたかもしれない。
『いいわ』
『え?』
『ただし、これっきりにして。金輪際、御免だから』
『わかりました』
『絶対よ?』
『約束します』
『わかった、作戦通りに動く。これで文句ないでしょ』
『お姉ちゃん! シャンパンもらえるかな?』
早速とばかりだった。テーブル席から注文が飛ぶ。
『はい!』
『こっちも頼むよ!』
『俺も俺も!』
『はい、ただいま!』
さっきまでの仏頂面はどこへ?
まるで別人。嘘みたいだった。いそいそとトレイ片手に駆け寄っていった。
真ん丸に丸まった可愛らしい尻尾を振りながら。
『なんだ。案外、ノリノリじゃないですか』
-
前の記事
次回作なんかについて 2025.06.08
-
次の記事
【香澄の秘密部屋】変態 ~ブラジャーになった上司~ 2025.06.11