【香澄の秘密部屋】ウサギ娘

【香澄の秘密部屋】ウサギ娘

『冗談じゃない』

ふてくされた顔で香澄は吐き捨てた。

『どういうつもり? こんな恰好させて』

『仕方がないでしょう。潜入捜査なんですから』

やや勢いに押されるようにして志来(しき)祐介。困惑しながら部下をなだめた。

『だからって、どうしてわたしなのよ』

『他に適任がいないからです』

『リンがいるじゃない』

『リンさんは実行役です』

眠らない街、ラスベガス。

会話の間も目まぐるしくスロットマシンの音が鳴り響く。

どうやら勝負強い客がいるらしい。引っ切りなしにフィーバーを当てている。

『香澄さんが他の男性客の目を引きつけてる隙にリンさんがターゲットのカードをすり替える。今夜のポーカーで勝つことさえできれば容疑者は必ず部屋に戻ります。そのときが証拠のファイルを見つけだすチャンスです』

『囮になれっていうの?』

『囮捜査ですから』

『質問の答えになってない』

『リンさんの発案です。香澄さんなら理想の目眩ましになるだろうって』

『あの詐欺師』

『気休めかもしれませんが。そのバニー姿、僕は好きです』

『何か言った?』

『いえ、こちらの話です』

『そう、これって志来クンの趣味ってわけ』

『えぇっと、それは』

マズイ。ウェイトレスでもバーテンでもない。あえて露出の多いバニーコスを着せようと目論んだのがバレたかもしれない。

『いいわ』

『え?』

『ただし、これっきりにして。金輪際、御免だから』

『わかりました』

『絶対よ?』

『約束します』

『わかった、作戦通りに動く。これで文句ないでしょ』

『お姉ちゃん! シャンパンもらえるかな?』

早速とばかりだった。テーブル席から注文が飛ぶ。

『はい!』

『こっちも頼むよ!』

『俺も俺も!』

『はい、ただいま!』

さっきまでの仏頂面はどこへ?

まるで別人。嘘みたいだった。いそいそとトレイ片手に駆け寄っていった。

真ん丸に丸まった可愛らしい尻尾を振りながら。

『なんだ。案外、ノリノリじゃないですか』