【香澄の秘密部屋】変態 ~ブラジャーになった上司~

【香澄の秘密部屋】変態  ~ブラジャーになった上司~

ある晩、僕は夢から目ざめたとき、自分が香澄さんのブラジャーに変ってしまっているのに気づいた。

僕の顔はお椀型に変形、身体はシルクの布きれになった状態で横たわっていた。人間としての意識や記憶はあるものの手足は動かすことができない。

その代わり五感は、いつも以上に冴えていた。

嗅覚や聴覚は勿論、特に視覚は思いの外、光源を取り込んでしまうようで満足に目を開けていられない。

おかげで今、自分がどこにいるのか解らないでいた。

『あの頭でっかち』

声だけが響いて聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。

『思い出しただけでイライラする』

『どうかしたんですか?』

『なにが『香澄さん、あなたには人の心というものがないんですか?』よ。血も涙もないのは自分じゃない。部下を馬車馬みたいに働かせておいて』

『志来主任のことですか?』

『他に誰がいるっていうのよ』

『きっと頼りにしてるんですよ』

『あんたにはわからないわよ、リン』

『まぁまぁ、お仕事のことは忘れて楽しみましょうよ。せっかく来たんですし』

『偉そうに。わたしがいなきゃ何もできないくせに』

まったく、けしからん。上司のいないところで悪口を垂れ流すとは。ここはひとつ、お仕置きが必要だろう。

さて、どうしてくれよう。

始末書? 減給? いやいや、そんな生ヌルい罰ではこの腹の虫は収まらない。

幸い今、僕は彼女のブラジャーという立場にある。ということはである。装着時には肌と過度に密着することを意味する。

その間は王様タイム。文字通りの触り放題の弄り放題。しかも人間のときと違って警戒される心配も不審に思われる心配もない。大手を振って一日中、顔を埋めていられるというわけである。

変態? どうとでも呼ぶがいい。軽蔑するならすればいい。

そう、あくまで僕はブラジャーとして君臨。そこに収まっているだけなのだ。したがって本来の役割を果たしているにすぎない。

豊満なGカップバストを支えるという重大な責務を担っているだけに。

つまり公務をこなす公務員と何ら理屈は変わらない。誰にも文句は言われないし言われる筋合いもない。

決して正当化しようとか邪な気持ちから言っているわけじゃない。

これは歴とした罰であり報復。

上司を怒らせたらどうなるか。あくまで、その見せしめのための所業なのだ。

『それはそうと素敵な露店風呂でしたね。評判通り広かったですし』

『まぁまぁってとこね』

『あれ? 最近、また少し胸が大きくなりました?』

『変なこと言わないで』

そうは口にしながらも気にするように香澄は目線を下に向けた。

『これ以上、大きくなられたら困る』

『どうしてです? いいじゃないですか。羨ましいです。形だって綺麗ですし』

『ただでさえ邪魔なのに』

『あ、新しいランジェリーですか? 可愛い』

『これ?』

『はい』

『別に普通だけど』

ひょい、片手で持ち上げられた。

『いいなあ、どこで買ったんです?』

『駄目、教えない』

『あ~ん、ケチ』

『だってアンタ、すぐ真似するでしょ』

上下逆さまだったのが引っ繰り返された。

そして、いよいよ母なる聖地へと急接近する。

視界全体が光に包まれているのが悔やまれる。そのせいで全体像を拝むことができない。さぞや目の前には絶景が広がっていたに違いない。

が、代わりに五感はフルに研ぎ澄まされているため他の感覚はある。

湯上がり後の体温を顔の前に感じる。石鹸の香りもした。これらの情報から想像するに膨らみは、すぐ側にある。

そうだ、いいぞ。そのまま身につけてしまえ。ひと思いに。遠慮することはない。さぁ! さぁ!

もうすぐ夢にまで見たランデブーの瞬間である。

あと数センチ、残り数ミリで顔を埋められる。

フカフカのケーキへとダイブできる。甘い甘いイチゴも堪能できる。

どんな反応をするか今から見物である。

『どうかしたんですか?』

と、順調だったはずの手が止まった。もう目と鼻の先。あと少しのところで。

『先輩?』

『ちょっと寒気が』

『風邪ですか? もしかしたら湯冷めしたのかも』

『違うと思う』

『ブラ、しないんですか?』

香澄の返事はない。沈黙したままシルクの布きれを一点に見つめている。警戒したように胸元も腕で隠した。

『なんかエッチに見えてきた』

『そうですか? 可愛いと思いますけど』

広げられたままのブラジャーを横目に睨みつけると香澄。チクリと言い放った。

『洗えば根性を叩き直せるかもね』

真冬の寒空の下、洗濯され放り出された。

寒い! 誰か助けて! このままじゃ凍え死んでしまう!

吊り下げられたまま無残に風に煽られ続ける。

が、悲痛な声は誰にも届かない。

香澄さん、反省してます! 反省してますから許してください! お願いですから中に入れてください! 香澄さぁぁん!!

次回予告

『変態 ~パンティーになった上司~』

乞うご期待!

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