【香澄の秘密部屋】初詣

【香澄の秘密部屋】初詣

一年の計は元旦にあり。

そんなわけで今日は地元の神社で初詣。

でも、今年の初詣はちょっと違います。

いえ、ちょっとどころの騒ぎじゃありません。一味も二味も違います。

え、何が違うかって? それは――

神様、贅沢は言いません。

健康と安全、事件の解決、給料アップに出世、これ以上、部下が大暴れしませんように。ジェットコースターよりメリーゴーランドの人生がいいです。始末書も謝罪会見も、この世からなくなりますように。

それと今年こそは――

「長い」

一刀両断。

すべてを台なしにし、ぶった切る銃弾のような一言が放たれる。

「いつまでお願いごとしてるの? お賽銭、たったの5円で」

そう、今年の初詣は、ちょっとだけ違う。

日本の警察に捜査協力を要請されての来日だった。

思いの外、早く済んだため、その足で一緒に地元の初詣に繰り出すことにした。

「きっと神様だって迷惑してる」

無愛想を絵に描いたみたいだった。

いつもの仏頂面。味も素っ気も。愛想も何もない横顔が言う。

けど、着物姿だけは悪くない。そう、着物姿だけは。

おかげで隣に並んだ自分は少しだけ貧相に見える。

「先に行ってる」

他の初詣客の邪魔にならないよう早々に香澄は譲った。

「あ、待ってください」

その尻を慌てて追う。

「それで? 志来クンは何をお願いしたの?」

「僕ですか?」

「うん」

「そりゃあ」

ええっと。少し考える合間を置いた。

「健康」

嘘は言ってない。無数にあるうちのお願いごとであることに変わりはない。ちなみに一番、重要な部分は端折っておいた。

まさか言えようはずもない。御本人サマを前にして。

「悪かったですね、つまらないお願いで」

「まだ何も言ってない」

「言わなくたって分かります」

上司と部下。それなりに付き合いも長いとである。相手の考えくらいわかるようになる。わざわざ口に出さずとも。

「どうせ僕はくだらない人間ですよ。取るに足らない。でも、くだらなくて結構。平凡で結構です。僕は殺し屋とは違うんです。安定こそが僕にとっての幸せです」

「本当にそれだけ?」

「そうですが?」

「ふぅん」と香澄。

「ちょっと意外」

「意外とは?」

「志来クンのことだから、てっきり」

「てっきり? なんです?」

「別に」

目線から逃れるようにしてだった。さりげなく香澄は着物の襟元を整えた。ひとつひとつの仕草が妙に艶っぽい。

「あっ」

ちょうど、階段を下りきった辺りだった。

「おみくじですよ、香澄さん」

初詣には欠かせない。むしろメインイベントとさえ言える。

まさに今年の命運を占う一代行事と呼んでよかった。

やらない手はなかった。

しかし香澄は興味がないようだ。

黙って通りすぎていく。普段、上司の小言をスルーするときみたいに。

「ひとつ運試しといきませんか?」

草履の足がピタリと止まる。

「新年初の運試しです。僕の見立てでは確率的に吉を引く確率は五分と五分。その中でも大吉は三割程度といったところでしょう」

「悪いことは言わない。運なんてアテにしないことね」

元殺し屋の女の反応は冷淡だった。

「勝負に負けるのには理由がある。勿論、勝つことにも。運なんて口実にすぎない」

「さては外れを引くのが怖いんですね?」

僕は畳みかけた。

「もしも、おみくじで悪い結果が出たらどうしようって。存外、気が小さいんですね」

「いいわ」

持ち前の負けず嫌いが手伝う。

「引いてやるわよ、おみくじでも何でも」

ものは言いようである。挑発の二文字をちらつかせることによって、一年の運を占うおみくじも途端、カジノのルーレットへと早変わりする。

「大吉です! 見てください、香澄さん! 大吉です! 大吉ですよ!」

まるで宝くじの当選でも引き当てたみたいだった。

ポーカーで呼ぶところのロイヤルストレートフラッシュ、ミシュランなら3つ星である。これ以上の成果もない。

これで今年の運勢は安泰。勝ったも同然である。

「声が大きい」

香澄が頬を赤らめる。

「大きな声、出さないで」

「これを見てください。恋愛運は最強。良縁に恵まれ思いは成就するでしょう。ですって」

たった5円と侮るなかれ。

効果は絶大。早速、願いが通じたようだ。

「そういう香澄さんは?」

どこか浮かない顔。

「結果はどうだったんです? 大吉ですか? それとも中吉? 小吉ですか?」

「馬鹿馬鹿しい」

広げてあった、おみくじを畳むと早々に仕舞い込んだ。

「所詮、子供騙しよ。根拠も何もない。馬鹿げてるわ。こんな不正確な情報に振り回されるなんて」

「ははあん」

このときの僕は、さぞ意地悪な顔をしていたに違いない。

「さては結果が良くなかったんですね?」

ちょっと困り顔なのが見ていて面白かった。

もっと困らせてやろう。今こそ積もりに積もった鬱憤を。恨み辛みを晴らすとき。

反撃の狼煙が上がる。

僕の中のいじめっ子遺伝子に火がつく。

「まぁ、そう気を落とさずに。きっと良いことがあります。僕は大吉でしたが」

「大吉よ」

「え? 大吉? 香澄さんも大吉だったんですか? なんだ、僕と一緒じゃないですか。それじゃあ」

正直、拍子抜けだった。

とんだポーカーフェイス。いや、引っかけである。まんまと殺し屋の術中にハマった。

「特に恋愛運」

「恋愛運? 恋愛運がどうかしましたか?」

思わず身を乗り出した。

「知らない」

必死に覗き込もうとする僕。逃げ回る彼女。

背丈が足りてないため子供と大人のじゃれ合いみたいになる。

「教えてくださいよ、ケチケチしないで。別に減るもんじゃなし」

「イヤよ」

さっきの仕返しとばかりだった。

困惑する僕を明らかに彼女は楽しんでいる。いじめっ子遺伝子に火がつく。

「ヒント! それは? 職場に関わることですか?」

「さぁ、どうでしょう」

「それともプライベート? 身近な相手?」

「ご想像に」

「香澄さんっ、お願いですから教えてくださいよぉ!」

彼女の恋愛運の結果が気になって仕方ない僕なのでした。