ノビチョクにサリンにVXガス? 『バイナリー兵器』って何?

ノビチョクにサリンにVXガス? 『バイナリー兵器』って何?

どうも、さかいです。

皆さんはバイナリー兵器というのを、ご存知ですか?

兵器というからには、軍事使用や大量破壊を目的としているわけですが、バイナリー兵器は、そこへ更に携帯性、安全性を目的として開発された経緯があります。

たとえばAという薬剤があって、そこへBという薬剤を組み合わせることによって、初めて本来の機能を発揮する化学兵器です。

今回は、そんなバイナリー兵器について、実際に使用された例、特性、歴史なんかについて、ご紹介していきたいと思います。

バイナリー兵器とは?

二種混合型化学兵器は化学兵器の一種。

強い毒性をもつ化学物質自体の代わりに、毒性物質の前駆体となる二種類の化学物質が容器内に物理的に隔離された状態で同梱されている兵器である。

二種類の前駆体はこれらの混合の結果生成される毒性物質よりもはるかに毒性が低いように選ばれており、このためバイナリー兵器は運搬や保管が通常の化学兵器よりも容易である特徴をもつ。

バイナリー兵器は使用されたとき、容器の中の二種の化学物質が混ざり化学反応を起こすことによって毒性物質を生成する。

多くの場合、最終機構として、作られた毒性物質をエアロゾルとして散布する機構が備わっている。

バイナリー兵器に必要とされる化学物質の少なくとも一種は化学兵器禁止条約(CWC)のスケジュール1指定物質にされているため、条約によりバイナリー兵器の生産、使用、貯蔵は多くの国で禁止される。

実例

M687

混合式M687 155mm砲弾

バイナリー兵器の一例としては、アメリカ軍が1970年代に開発したM687がある。

M687は化学兵器砲弾であり、 メチルホスホニルジフルオリド (米軍事用語でDF と呼ばれる) と他の二種類の化学物質が容器内に隔壁に分けられた状態で砲弾内に同梱されている。

この砲弾が発射されると、加速により隔壁が壊れ、化学物質どうしが混ざり、サリン神経ガスを生成する。

VXガス

映画『ザ・ロック』より ※劇中では球状のガラス製カプセルに封入されていたが、実際はステンレス製カプセルに封入される。

猛毒の神経剤(V剤)の一種。

サリンなどと同様、コリンエステラーゼ阻害剤として作用し、人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質の一つといわれる。(ノビチョクはその5 − 8倍の強度)

1994年のオウム真理教のテロ事件でも使われた。

呼吸器からだけでなく、皮膚からも吸収されて毒性を発揮するため、ガスマスクだけでは防護できない。

また、親油性が高く、水で洗浄しただけでは取り除けないため、安全な状態にするためには化学洗浄が必要。

木材や皮、布などに付着した場合には長期間毒性を維持したまま留まるため、VXガスに汚染された物に触れただけでも危険。

例として会社員VX殺害事件では1ミリリットル程度のVX溶液で死に至った。

金正男の死はVXガスのバイナリー兵器が使われた可能性があるとされている。

理由として、もし容疑者が直接VXを所有していたなら、VXの蒸気により死亡しているはずと考えられているため。

ノビチョク

有機リン系の神経剤。

ソビエト連邦とロシア連邦が1971年から1993年に開発した神経剤の一種。

VXガスと比べて5倍から8倍、ソマンの10倍以上の致死性があるとされる。

これらはソビエト社会主義共和国連邦のコードネーム「フォリアント」計画の一部。

ノビチョクは軍事用に兵器化されているとされている。

ノビチョクのなかでも最も用途が広いものはA-232(ノビチョク5)。

現在のところノビチョクが戦場で用いられたことはないとされる。

ロシアの反政権活動家アレクセイ・ナバリヌイ氏が飛行機の機内で意識を失い重体となった事件で、ドイツ政府が神経剤「ノビチョク」系の毒物が用いられていたと発表。

また、イギリスの首相テリーザ・メイは2018年3月、イングランドにおけるロシアの元スパイ毒殺事件に使用されたと発表した。

ロシア連邦当局はノビチョクの生産や研究を否定している。

ノビチョクは、以下の4つの目標を達成するために設計された。

北大西洋条約機構(NATO)の1970年代から1980年代の標準的な化学物質検出装置で検出できないこと。
NATOの化学防護を突破すること。
安全に取り扱えること。
化学兵器禁止条約により規制された前駆物質(前駆体)のリストを回避できる化学物質であること。

これら目標は全て達成されたとされる。

これら製剤のいくつかはバイナリー兵器であり、使用直前に神経剤の前駆物質を特殊な器具で混ぜることにより生成可能。

前駆物質は、一般的に生成後の薬剤より危険性がかなり低いため持ち運びや取り扱いを容易にする。

さらに、薬剤の前駆体は通常、薬剤自体よりも安定性が高いため、使用期限を延ばすことも可能に。

一方、誤った調合により適切でない薬剤を生成しうる欠点もある。

1980年代から1990年代には、ソ連はいくつかのバイナリー兵器を開発。

「ノビチョク」剤として指定されている。

サリン

有機リン化合物で神経ガスの一種。

別称はGB、イソプロピルメチルフルオロホスホネートやメチルフルオロホスフィン酸イソプロピル。

化学兵器としてのサリンは、1938年にナチス・ドイツで開発された。

「サリン」の名称は、ナチスでサリン開発に携わったシュラーダー、アンブローズ、リッター、フォン・デア・リンデの名前から取られた。

※サリンの化学式自体は、すでに1902年に公表されていた。

殺傷能力が非常に強く、吸収した量によっては数分で症状が現れる。

また、呼吸器系からだけでなく皮膚からも吸収されるため、ガスマスクだけではなく対応する防護服を着用しなければ防護できない。

また、衣服や身体等に付着したサリンが再度気化し、二次被害を生じさせる場合がある。

TVシリーズ『デクスター』シーズン6のエピソード10,11劇中にて、メチルホスホン酸ジフルオリドイソプロピルアルコールによりサリンを生成。

バイナリー兵器として描かれている。

化学兵器の歴史(世代別)

第1世代

第1次世界大戦で使われたのが、マスタード、ホスゲン、塩素。

マスタードは農薬、ホスゲンは合成樹脂、塩素は消毒剤の製造過程で出てきた副産物とされている。

それらを初めて戦争に利用。

化学兵器の第1世代として考えられる。

第2世代

サリンが該当。

1938年にドイツで開発されましたが、第2次世界大戦では使われず。

毒性が強く、漏れ出てしまって被害が続出する事故が多発したため。

第3世代

1952年にイギリスで合成されたVXなどの神経ガス。

2017年、マレーシアで北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の兄、金正男(キムジョンナム)氏が暗殺された事件で使われたとされる。

第4世代

先述した通りサリンもVXも取り扱いが極めて困難。

そのため、第4世代の開発で目標にされたとみられるのが「バイナリー兵器」。

バイナリー兵器は、神経剤となる前段階の2種類の物質を隔離して持ち運び、使う直前に混ぜて使うのが特徴。

メリットとして前段階の2種類は漏れ出ても無害であるため、安全に運搬できる。

ノビチョクはバイナリー化された第4世代。

さてさて、いかがだったでしょうか。

組み合わせて使用する化学兵器なんて、想像しただけでも背筋が寒くなります。

実に巧妙でもあり狡猾でもあり、なんともいえない気分になりますね。

つくづく人間の恐ろしさが垣間見えた気がします。

仮にフィクションの世界なら、優れた小道具としてトリックやストーリーを盛り上げる題材として用いることも歓迎されるでしょうが、このような恐ろしい化学兵器が現実世界で使われたとなれば大惨事です。

人間の業はどこまで深いのか。

あなたは、どう感じましたか?

引用:Wikipedia